金継ぎ
出典:漆芸舎平安堂
室(ムロ)
お道具箱
写真: 漆芸舎平安堂
金継ぎ
~こわれた器をよみがえらせる伝統技術
出典:漆芸舎平安堂
金継ぎとは、漆を使って壊れた器を修理し、金粉をほどこすことで元の器を美しく蘇らせる日本独自の伝統技法です。壊れたものを受け入れ、ただ修理するだけでなく、使い手の想い、作家の想いを器にこめるという精神性に加え、修復して再利用するというスタイルは現代のSDGSにも通じるものがあり多くの共感を呼んでいます。
今日は世田谷区大原で行われている漆芸舎の金継ぎ教室の見学に伺いました。今回訪れたのは世田谷の自然豊かな広大な敷地内にある旧柳澤家住宅離れで、ガラス越しに明るい日差しを感じながら、ジャズが流れるゆったりとした空間です。数名の生徒さんが漆芸修復師の清川廣樹先生がいらっしゃいました。1日のスケジュールは10時から途中、昼食をはさんで16時までとなっています。
漆芸舎で東京地区をご担当されている渡辺様が説明してくださいました。
本格的な金継ぎを伝授
清川廣樹先生は、漆芸修復師として、江戸時代に確立された職人技術と伝統工芸を守り伝えていらっしゃる方です。 金継ぎを通して、室町時代の文化を後世に伝えていきたいとのお気持ちからこの教室を始められました。そのため、本教室では国産の漆を使い、本格的な伝統的な手法を伝授しています。因みに、合成うるし等を用いた簡易な方法で修復を行う教室も多くあるようです。
漆とは・・・
漆は耐久性、耐水、防腐性が高いなど優れた特質があります。漆はその中に含まれるウルシオールとラッカーゼという成分には水分を吸って硬化する性質があります。また、漆がよく乾くの(硬化)に必要な条件は、湿度70~75%、温度が25度前後。じめじめした時期は良く乾き、逆に空気が乾燥し、気温の低い冬は必ずムロに入れないと乾かないそうです。
室(ムロ)
ムロという杉製のボックスで、金継ぎの際の器の乾燥に使います。杉は日本の固有種で、調温調湿作用が強いことから、漆の硬化に最適な環境を作り出すことに向いています。最適な環境をつくるために、清川先生はムロの中に、黄色い白熱灯100ワットを入れて温度を上げたり、板面に霧吹きしたりして調整しているそうです。ムロは金継ぎ工程の中で何度も使います。
金継ぎの工程
渡邊さんから、基本的な金継ぎの工程の説明を受けました。金継ぎの技術は、割れ、欠け、ひびのみならず、破損の程度や依頼主の想いや希望、素材により異なるため無数にあるそうです。ここでは基本の工程をお伝えします。
出典:左はお道具箱
漆芸舎平安堂
① 先ずは器をどのようにデザインするかを考えます。単なる修理ではなく、器の個性を生かしつつ、修復部分をデザインすることが大切とのこと。大事なことは器の模様に合わせて、デザインは器より前に出ず、器と調和のとれたものにしていくことです。
② 糊漆で割れた部分をくっつける
糊漆は生漆と上新粉を混ぜて作りますが(生漆:上新粉=1:1)、ここで上新粉は白玉団子になる前の状態までお湯で溶かします。上新粉の代わりに麦を使い方もいます。割れたところに、糊漆を塗って接着。はみ出したところをきれいにして、テープを張って養生しムロで3~4日から1週間ぐらい乾燥させます。
③ 錆漆(パテ)で欠けた部分を埋める
生漆と「砥の粉」(トノコ・京都山科で採れた山の土で粒子が細かい)を混ぜてできるのが錆漆(生漆 + 砥の粉)。欠けた部分や、糊漆の上に錆漆を塗ることで、修復部分はより丈夫になります。錆漆が乾いたら、凸凹しているので、耐水ペーパーを使って水研ぎし表面を滑らかにします。
④ 黒漆を塗る
黒漆は生漆に酸化鉄を調合したもので、これを二度塗りします。これにより錆漆に被膜がつくられ防水効果が高まって、水洗いしても使えるようになります。
⑤ 弁柄漆を塗り、金粉を蒔く
弁柄漆は赤色の顔料が入った色漆ですが、半乾きの時に金を蒔くことで、弁柄漆の中に金粉を抱きこんで定着させていきます。
⑥ 金粉が乾いたら、希釈した生漆で金の表面をコーティングします。これは弁柄漆と金の間に生漆が入ることで、金の定着をより強くするためです。
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注:
l 漆の樹液は一本の木から採れる漆は約200gと牛乳瓶1本ぐらいです。
漆の大半を占めるのは中国、ベトナム産で、国産は全体の2%程ですが、国産は伸びが良く、仕上げの光沢・つやが良く、高い耐久性があります。
l 漆は生乾きや半乾きではカブレルので注意。
l 漆の乾燥には時間がかかり、完全に乾かないと次の工程に進めません。
l 日本は昔から稲作文化であることから、平安堂では米粉を使います。更に小麦粉は防腐剤が入っている可能性があるので、平安堂では使わないそうです。
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私は不完全なものを受け入れ、新たな価値を加えて生まれ変わらせるというアイディアに感動しました。これは人生のあらゆる場面でも生かせる考え方ではないでしょうか。金継ぎは、不完全なもの、欠陥のあるもの受容するという、寛容な心や生活の知恵を込めたものだと思います。
また、日本の天然素材にこだわり、日本の職人を支え、日本伝統の手法を次の世代に伝えていきたいという信念が感じられ共感を覚えました。
この日本の誇らしい技術と美意識を残していくために、一度金継ぎを体験されてはいかがですか。
(2021年10月7日木曜日見学)
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漆芸舎平安堂
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世田谷教室
〒156-0041 東京都世田谷区大原1-26-1
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京都と東京ではお茶の水にも教室があり、1ターム10回。